酢ムリヱストーリー
「酢ムリヱ」という言葉を初めて聞く方へ。酢とくらしの研究所が何者で、何をしてきたのかを、順を追って紹介します。
「酢ムリヱ(すむりえ)」とは、ワインのソムリエになぞらえた造語で、酢の選び方・楽しみ方を案内する専門家を指します。2003年に内堀光康が髙島屋で酢の専門店を開いたとき、お客様から「あなたは酢のソムリエですね」と言われるようになり、自然に定着した肩書きです。
当時、酢は「酢の物・酢豚・お寿司に使う調味料」というイメージが強く、健康に良いとは知られていても、日常的に手に取りにくい存在でした。「酢を販売する人」ではなく「酢の世界を案内する人」として立つことで、酢への関心が人を通じて届くようになりました。
その後、野菜ソムリエ・温泉ソムリエ・家事ソムリエなど「○○ソムリエ」という専門家の呼称が全国に広がりましたが、この形を最初に作ったのが酢ムリヱです。2006年にはNHKの書籍に新語として収録されました。
「デザートビネガー」は、ブルーベリーやマンゴーなどの果実から造った果実酢に、同じ果実由来の甘みを加えた飲み物です。2003年当時、日本にはこのカテゴリー自体が存在しませんでした。
酢を調味料として使う場合、料理が失敗するリスクがあるため、初めて試すにはハードルが高い。それならまずは「飲んで、楽しんで味を知ってもらう」商品を作ろうと考え、髙島屋での販売を始めました。
※ デザートビネガーはオークスハート株式会社の商標です。
百貨店の店頭では、意図的にダジャレを使っていました。「酢フトクリーム」「アイ酢クリーム」「あんこde酢」など、酢を使った商品に、あえて笑える名前をつけました。
酢は「健康に良いけれど酸っぱくて近寄りがたい」と思われやすい調味料です。笑いはその入口として機能しました。2007年に東京駅構内に出店した酢のスタンドカフェでも、名前を見て足を止める人が毎日絶えませんでした。プロ野球球団ともコラボし、その際の商品にも楽天イーグル酢・横浜ベイスター酢・頑張れドラゴン酢と名付けました。
最初の販売先に髙島屋を選んだのは、百貨店には「ここに置いてあるものは信頼できる」とされているからです。加えて、酢ムリヱ本人が店頭に立って話ができるため、商品・場所・人が揃うことで、酢への先入観が和らぐと考えました。
その後、東京駅構内に10年以上、銀座三越1階に5年、日本橋三越・松屋銀座にも出店し、銀座・日本橋の主要百貨店すべてに酢の専門店を構えました。
スーパーの酢売り場の変化も、この時期から始まりました。かつて「米酢」「穀物酢」「りんご酢」と原材料名がそのまま商品名だった棚に、徐々に親しみやすい名前の商品が増えていきました。
2006年には「酢ムリヱ」がNHKの書籍に新語として収録されています。JALファーストクラスの機内食で使われ、イタリアやドイツのブランド企業の記念品としても採用されました。
2010年にはイギリスの雑誌 The Independent が特集を掲載。2012年にはANA国際線機内誌「翼の王国」に8ページの特集として登場しました。
酒類統計⽉報によると、2006年には果実酢の国内生産量が前年比52%増を記録。その後も高い水準が続いており、2020年時点でも2003年比22%増を維持しています。
現場で培った経験を次世代に繋ぐため、2019年に酢とくらしの研究所株式会社を設立し、活動の軸を店舗運営からコンサルティング業務に移しました。食品・発酵・健康分野の企業に向けて、商品開発・ブランド戦略の支援・セミナー講演を行っています。
2023年から東京農業大学にて、家庭でのクラフトビネガー醸造の研究も進める一方、東南アジア企業の顧問としても、日本の発酵文化の海外展開にも関わっています。
酢をローマ字で書くと「SU」になります。このSとUという二文字には、少し面白い形が隠れています。Sの上の丸みと、Uを書き始めるときの角を合わせると、ハートの形になるのです。
文字の偶然の一致ではありますが、心を込めて酢を届けたい、私はずっとその気持ちを大切にしています。